最近電子工作を始めだしたクックパッドの舘野 ( id:secondlife, @hotchpotch )です。昨今 Arduino や Raspberry Pi を初めとしたボードの登場により、気軽に電子工作プログラミングができるようになり、プロトタイピングの敷居が非常に下がってきていますね。電子工作における “Hello World!” である LED を発光させる実装の “Lチカ” や、ブレッドボード上での簡単な電子機器やモジュールを組み合わせてプログラムから操作などを実際にしてみたことがある方も多いのでは無いでしょうか。
ただそこまでは非常に気軽にできるのですが、その先の電子工作へ進む時に溝があるのも確かです。ソフトウェアのみで完結する開発の場合、初心者でも解らないなら解らないなりに調べ、ソースコードをコピペして弄って理解してみたり、ライブラリを使っていくうちに徐々に進んでいくことが可能です。
しかしながら、電子工作では初心者が開発を進める時に、以下の問題に何度も遭遇しがちでなかなか前に進みません。というか私が何度も遭遇しました…。
- 手元に道具・パーツが無いので先に進められない
- 知識が無いので、何を揃えるべきなのか解らない
- パーツを購入できる場所が、東京なら秋葉原に行くか通販での購入となるため、時間と送料がかかる
何かを学ぶには、短い期間でトライアンドエラーを繰り返すことは効果的なのですが、電子工作はソフトウェアのみでは完結せずにリアルの道具だったりパーツが必要になってしまい、簡単には前に進めません。そのため、本エントリーでは、最初に発生しがちな道具・パーツ足りなり問題をできる限り回避しするために、私が電子工作を始めるにあたり必要だった道具や、買っておいたほうが良いパーツ、その他もろもろを紹介します。
道具
はんだこて
温度調整でき、セラミックヒーター(10秒ほどで使用可能になる)はんだこてが便利です。温度調節は半固定(ドライバーなどで回す、何かに引っかけて温度がうっかり変わることを防ぐ)の物と普通に手で回せるダイアル式がありますが、好みでどうぞ。
糸はんだ
いわゆるはんだなんですが、鉛フリーはんだと鉛入りの従来のはんだがあります。鉛入りのハンダの方が融点が低く溶けやすいため扱いやすいのですが、環境問題のため鉛フリーはんだへの切り替えが進んでいます。
鉛フリーハンダを使う場合、従来のハンダよりハンダごての温度を高めにセットする必要があります。
はんだこて台
はんだを置くための台です。重量がある台がはんだを置いたときに動きにくく好きです。こて先クリーナーがセットになってる物となってない物があるので、なってない場合はこて先クリーナを別途買う必要があります。
スッポン (簡易はんだ吸い取り機)
はんだをミスしたときに、そのはんだを再び温め直し吸い出すために使います。初めて使ってみたときはスッポンと吸い取れて感動的でした。
はんだ吸い取り線
こちらもはんだをミスしたときに、吸い取り線をかぶせ上から熱することで吸い取り線にはんだを吸収させます。基本スッポンですむならそちらでいいのですが、場所によっては吸い取り線の方が便利なことがあります。
フラックス
フラックスは糸ハンダ(中心部に入ってる)やはんだ吸い取り線にも含まれていますが、そのフラックスだけでは足りない場合や表面実装などに使います。ハケつきのフラックスが扱いやすいです。
テスター
電圧・抵抗値が測れるテスターでまずは困らないと思います。電流は電圧/抵抗 (オームの法則・ I = V / R ) で求められるので電流表示が無いテスターもありますが、電圧・抵抗をおのおのはかるのも面倒なこともあるので、電流表示に対応してるテスターを選ぶのも良いでしょう。
またアナログとデジタル表示のテスターがありますが、デジタル表示のテスターはオートレンジに対応している物が多いので、測定範囲を手動で設定しなくとも良いので便利ですね。
なおテスターは機種によって大きさが結構異なるので、小型で持ち運べる・収納しやすいタイプを選ぶのか、それなりの大きさで机の上に置きっ放しで使うのかを考えて選びましょう。
ピンセット
指先だけではできない細かい作業に。
ニッパー
いろいろな物を切るのに使います。
ラジオペンチ
いろいろな物を挟んだり曲げたりします。なおピンセットもニッパーもラジオペンチも100円ショップで売ってますが、刃物の切れ味や精度が違うので、良い物を買って置いた方が良いです。
ワイヤーストリッパー
ワイヤーのビニールなどを剥くときに利用します。はさみやカッター・ニッパーでもできますが、ワイヤーストリッパーがあると段違いに便利です。電子工作向きの細いワイヤーを剥くため、AWG 30 に対応してるワイヤーストリッパーを買いましょう。なお AWG は米国ワイヤゲージ規格 American Wire Gauge の略で、数値が大きければ大きいほど細いです。
ルーペ
ハンダ付けしたあとのチェックや、ICなどに書かれた型番などを見るのに使います。可変倍率でつかえるルーペ(私は3~15倍の物を使ってる)があると便利です。
精密ドライバー
普通のドライバー用としてはもちろん、半固定抵抗の調整などで多用します。
マスキングテープ
はんだ時の機器固定に使います。特に表面実装部品では必須です。Cerevo さんの TechBlog に解りやすい使い方が載ってます。
カッティングマット
机の上に敷いて作業します。これで汚したり傷つけても安心。
ヒートクリップ
はんだ付けの時、IC等を壊さないために熱を逃がしたいときに使います。アルミ製なのではんだがつきません。またケーブルや機器の固定用途としても使えます。
ワニ口クリップ
ヒートクリップ用途としても使えますし、それなりの大きさなので固定用途にも使えます。個人的にはアルミの薄いヒートクリップよりこちらを主に使ってます。50mmぐらいのサイズの物が便利です。
ミニバイス ( 簡易クランプ )
卓上で何かを挟んで固定したいときに役立ちます。またゴム製の吸盤で結構しっかりと机の上に固定することができます。こんなやつです。
ブレッドボード
ブレッドボードは長いタイプ(830穴)と普通のサイズのブレッドボード、小型のブレッドボードがおのおの5つぐらいあると便利です。ブレッドボードが足りないがために、プロトタイピングで電子回路組んだのに、ブレッドボードが足りないから全部ばらして…となると勿体ないので、そこそこの数を持っておきましょう。
ジャンプワイヤ
各種ピンとブレッドボードの配線に使います。オスオス・メスメス・メスオスの3タイプがあって、オスオスをブレッドボード配線で使うため基本一番よく使うのですが他の二つもそろえておきましょう。また長さも様々ですが、よく使うオスオスはいろいろな長さの物を用意しておくと便利ですね。
ワニクリップコード
両端がワニクリップになってるコードです。仮の配線などに重宝します。
USB シリアル変換アダプター
PC と電子機器の通信に使われるシリアル通信を行うためのアダプターです。定番の FTDI 社のチップが載ったアダプターを使うのが無難ですね。以下の商品は、USB micro-B でつなげ、かつ電圧を5V/3.3V どちらでも出力可能なので便利です。
パーツ
ピンヘッダ
ボードのピンを生やすのに多用するピンヘッダ。かなりよく使うため、一般的な 2.54mm * 一列のピンヘッダを5つぐらい買っておくと良いでしょう。
また以下のような詰め合わせパックを一つ持っておくと、だいたいの場合に対応できます。
ユニバーサル基板
2.54mm ピッチで縦横に部品をつけるための穴が空いているユニバーサル基板。用途に合わせて大きさを選ぶのですが、最初は基本的なCタイプ(72x47mm)の両面にスルーホールがあるものを買っておきましょう。
スズメッキ線
ユニバーサル基板の配線などに使うスズメッキ線。太さがいくつかあるんですが、私は 0.6mm が堅すぎず柔らかすぎず丁度良いのでその太さを使ってます。
耐熱ワイヤー線
こちらも配線で使うワイヤー線。周りがポリエチレンなどの絶縁体で覆われています。太さがいろいろあるのですが細め(AWG26~24程度)と太め(AWG20~18程度)を持っておくと便利です。
熱収縮チューブ
むき出しの配線の絶縁等に使います。たいていの熱収縮チューブはドライヤーの熱でも収縮します。
抵抗
必須品の抵抗。種類もいくつもあり、金属皮膜抵抗やセメント抵抗、カーボン抵抗等ありますが、一般的なカーボン抵抗を買いそろえておきましょう。といっても沢山の抵抗値があるので、以下のような様々な抵抗の詰め合わせパックを買っておきましょう。
可変抵抗
つまみを回すことで抵抗値を変えられる抵抗です。ボリュームやポテンショメータともよばれます。この抵抗も様々な抵抗値があり用途によって適切なレンジの可変抵抗を選ぶ必要があります。こちらも詰め合わせパックを一つ買っておくと便利です。以下は半固定抵抗の詰め合わせですね。
電解コンデンサ
いわゆるコンデンサです。こちらも用途によって適切な容量を選ぶ必要があるため、まずは詰め合わせパックを買っておきましょう。
セラミックコンデンサ
パスコン用途として多用するセラミックコンデンサです。こちらも(以下略)
水晶発振子
クロック作成のために必要な発振回路です。こちらも用途によって必要な周波数は変わってくるので詰め合わせパックを…と思ったら詰め合わせパックが無くなっているようなので、4,8,10,16,20,24MHzあたりを買っておきましょう。なお例えば Arduino Unoなどの積まれてるマイコン、ATmega328P を16MHzで動かすのに16MHzの外部水晶発振子が必要です。
トランジスタ
まずは日本で広く使われているトランジスタ、東芝の 2SC1815 (NPN) とそのコンプリメンタリ(型がNPN/PNPの対になってる物) の2SA1015 (PNP) を用意しておきましょう。
ダイオード
電流を一方向に流す整流用のダイオードを用意しておきましょう。他にもいくつかの種類のダイオードの詰め合わせを買っておくと便利でしょう。
レギュレータ
一定の電流・電圧を保つレギュレータ。電子機器でよく使う 5V と 3.3V に降圧するための物を用意しておきましょう。最初のうちは以下のようなコンデンサがセットになったパックを持っておくと困りません。
スイッチ
押しているときにオンになるタクトスイッチと、オンオフを切り替えるスイッチを用意しておきましょう。
こんなやつですね。
その他
以下はArduino等と組み合わせて初心者向けの電子工作で出てくることが多いパーツ類です。持っておくと初心者向けの工作を進めやすいと思います。無くても大丈夫。
- LED
- なんだかんだで結構よく使うので、赤緑青おのおの10本ぐらいもって置いても損は無いです。
- CdSセル (光センサー)
- 光の量によって抵抗値が変更するため、光センサーとして利用されます
- 7セグメントLED と 8x8マトリクスLED
- ダイナミック点灯、シフトレジスタの挙動を理解するのによく使われます
- シフトレジスタ 74HC595
- 上述の用途で良く利用されます
- A/D コンバーター
- Raspberry PI など A/D コンバータが無いデバイスを使ってる場合、A/D 変換するときに使います。MCP3208を1個ぐらい持っておくと便利ですね。
- 各種センサー類
- 温度や湿度、加速度といったセンサー類です。i2c のインターフェイスで使い慣れているセンサーを一つ持っておくと、とりあえずの挙動確認にも使えて便利です
- 小型液晶
- こちらも1,2個持っておくと便利ですね。
- http://akizukidenshi.com/catalog/g/gM-09109/
収納
様々なパーツ・道具を扱うため、アクセスしやすい収納は大事です。
いろいろな収納を試してみたのですが、小型のパーツや機器類は100円ショップの16分割(可変!)できる収納ボックスに入れ、その他の道具はこちらも100円ショップに置いてある 30cm x 8cm x 8cm のボックスにジャンルごとに物を入れ使ってます。透明なのも、中身が解りやすくて良いですね。
16分割できる小型パーツ入れ
30cm x 8cm x 8cm のボックス
便利グッズ
USB電源
PC とは別口で USB の電源ポートが卓上にあると、USB 機器への給電はもちろん、 5V のDC電源としても使え便利です。
USB をオンオフするだけのスイッチ
USB 接続で開発していると電源のオンオフを繰り返すため、そのたびそのたび USB ケーブルを抜き差しして、ということをしていたのですが、オンオフするスイッチがを使うとケーブルの抜き差しが必要なくなり、めっちゃ便利になりました。
コンセントの電源オンオフスイッチ
こちらはACアダプタやハンダごての電源をオンオフするのに多用してます。電源タップにこの機能がついてない場合、単品の物を買っておくと良いでしょう。
ネットショップ
私個人が電子機器やパーツを購入するのに使ってるネットショップは主にこの4つです。
- 秋月電子通商
- 細かなパーツ類は大概そろいます
- スイッチサイエンス
- ボードやモジュールを海外の有名どころから輸入して取り扱っていたり、自社でも便利なモジュール出していたり、今風の物を取り扱ってます
- Amazon
- 細かいパーツの単品は無いのですが、そこそこいろいろ置いてあります
- ebay
- 面白商品・格安商品が沢山あります。届くまでに時間がかかりますが、それでも良い物は ebay で買うことが多いです。amazon.co.jp で海外直送のため届くまで1~2週間かかるような電子機器・パーツはたいてい ebay に出品されており、さらに安く買えます
書籍
初心者が電子工作の知識を深める当たって参考になった書籍を紹介します。
- 図解 つくる電子回路―正しい工具の使い方、うまく作るコツ (ブルーバックス)
- 非安定マルチバイブレータ回路(この回路自体知らなくて大丈夫です)を、道具の解説から、ブレッドボード上へ仮実装し、最後にユニバーサル基板上にはんだやスズメッキ線などをつかい、どのように実装していくかをイラスト入りで丁寧に解説しています。基本的な道具の使い方を学べるでしょう。
- 電子工作入門以前
- "「入門以前」の電気・電子の基礎理論や電子回路・部品の知識,マイコンの基本,プログラミングの基本などを1冊にまとめました。" と書籍概要にあるとおり、基礎から基本的な部品の使い方、最後は時計を作を例に、どう時計を設計していくかを学ぶことができます。
- Make: Electronics ―作ってわかる電気と電子回路の基礎
- 電気の基礎から、実際に手を動かして試してみることをセットに学んでいきます。舌に9Vの電気を流したり、LEDを焼き切ってみたり、リレースイッチをカッターで分解してみたりと、大変楽しく学べます。
おわりに
本エントリーでは、私が電子工作を始めるに当たり必要になった道具やパーツ類を紹介しました。全部そろえるとそれなりにコストがかかるのですが、例えばスマートフォン開発するときに実機を買うコストを考えると、大して差は無いかなぁと思います。またアレが足りないやソレいるの?という物もあるかも知れませんが、私視点で必要になった物ということで…。
冒頭で触れたとおり、今は Arduino を初めとしたプログラミングしやすいボートが登場し、WiFiやBLE・その他無線ネットワークを通し電子機器とインターネットとの連携も非常にやりやすくなってきています。そんな電子機器の開発が本エントリーの道具をあらかじめそろえることで、歩みが早くなれば幸いです。