エンジニア社内留学制度を利用してAndroidアプリ開発を体験した話

こんにちは、事業開発部でデータ分析やデータエンジニアリングをやっている佐藤です。最近の楽しみはクックパッドマートで買ったコーヒー豆を挽いて淹れることです。

今日はクックパッド社内で実施されているエンジニア社内留学制度について紹介します。

エンジニア社内留学制度とは

エンジニア社内留学制度は「異動をすることなく短期的に他の部署でその部署の仕事をする制度」というもので2019年4月に作られました。 この制度は異動をせずに視野を広げたり自分のキャリアを考えるための制度であり、普段自分が関わらない技術や分野に対して新しいチャレンジをする機会を提供するための制度です。

エンジニア社内留学制度を利用することで、最大2ヶ月の間もとの部署の仕事から離れて留学先部署の業務に取りかかれます。これは全エンジニアが利用可能な制度です。
この制度の概要は上記のとおりですが、制度を利用して留学させる・受け入れる側を含めた関係者の狙いは下記のようなものとなります。

  • 留学生側
    • 他部署の業務に取り組むことで、視野を広げ、技術や分野において新しいチャレンジをする機会とする
  • 留学元部署
    • メンバーの目線を広げ、技術や分野の違うチャレンジをするなど成長の機会とする
    • 他部署の業務を詳細に知る社員を増やすことで、留学終了後もより円滑に協力できるようにする
  • 留学先部署
    • 短期的な開発リソースの確保
    • 自部署の業務を詳細に知る社員を増やすことで、留学終了後もより円滑に協力できるようにする

この制度が作られた後、サービス開発を行う部署から技術基盤の部署へのエンジニア留学が何件か実施されました。 自分はこの制度を利用して5月〜6月の2ヶ月間モバイル基盤部でAndroid留学を行いましたので、以降の内容ではそのAndroid留学に関して書いていきます。

Android留学の流れ

当記事の冒頭に書いたとおり、自分は普段は事業部でデータ分析やデータ整備作業などを主務として行っていました。 そんな自分が今回エンジニア社内留学制度を使ってAndroid開発に関する知識を身に着けようと思った動機はおおまかに下記の3つです。

  1. Androidエンジニアが足りないということで丁度モバイル基盤部がAndroid留学を募集してた(下記の図を参照)
  2. 部署でデータ分析をしているうちにモバイルの知識が必要になってきた
  3. Android留学を一回しておくと今後iOSで同じようなことをしたくなったときの取っ掛かりにもなりそう

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Android留学募集の様子

というわけで上長に相談し、次の目標を掲げての2ヶ月の社内留学が決定しました。

  • Android版クックパッドアプリのどの部分のコードでどうやってログデータを送ってるか把握する
  • Androidアプリのロギング処理をクライアント側で調査・デバッグできるようになる
  • 誰かが新たにロギング処理を仕込む際に、相談相手になったりコメントできるようになる
  • 今後もモバイル基盤部と協力してモバイルのログ周辺がより良くなるよう整備をしていけるようになる
  • モバイルエンジニアに依頼するばかりでなく自分でもログを仕込めるようになる

この時点でAndroidアプリ開発もKotlinもJavaも全く触れたこともありませんでした。完全に未経験の状態です。 このあたりの留学決定に関する流れは4月頭の1on1で相談したら即留学用チャンネルにinviteされ、3週間ほどの調整期間の後、留学を実施というスピード感でした。調整期間というのは元いた部署の仕事から離れても大丈夫なよう片付けるための期間だったので、特に何かしらの準備があったわけではありません。

やってみてどうだったか

留学期間で実際に着手したタスクは下記の4つでした。

  1. アプリ画面リファクタリングに伴うログ変更に関する調査と周知
  2. 古いコードのVIPER化
  3. モバイルアプリにあるロギング実装に関するドキュメント整備
  4. 旧ロギング実装のリファクタリング

各タスクについて個別に書いていきます。

1. アプリ画面リファクタリングに伴うログ変更に関する調査と周知

クックパッドが提供しているレシピアプリはiOS・Androidの両プラットフォームともにVIPERというレイヤードアーキテクチャを採用しています。このVIPERアーキテクチャ採用は2018年に決定したもので、今利用しているコードの中には旧アーキテクチャのままになっている箇所もあります。よって既存コードをVIPERのアーキテクチャに置き換える作業(通称VIPER化)が行われています。
最近行われたとある画面のVIPER化に伴って、意図せずログ送信内容が書き換わっている可能性が高いことがわかりました。そのため、その問題の調査と社内周知に留学初タスクとして取り掛かりました。実際にやったことはVIPER化の手順を追いかけ、ログ実装を読み、実際に送られたログデータの変化を確認するだけです。

2. 古いコードのVIPER化

初タスクでVIPER化の作業を追いかけて読んだため、Android開発の素振りとしてVIPER化に取り組むこととなりました。しかし、結論から言えばこのタスクは断念することとなりました。
理由は初めてのモバイルアプリ開発に対して、あまりに知識が足りなかったためです。開発するためのキャッチアップに時間を浪費してしまい、そのままでは定められた期間で留学の目的を達成することが困難と判断したためです。VIPERもそうですが、Rx・DI・マルチモジュール・Android知識など予め備えておくべき知識の諸々を学びながらの期間であったため、見てもらうためのPRの実装を作るまでに時間がかかってしまいました。初めてレシピアプリ開発に取り掛かる開発者も困らないようにと初学者用ドキュメントは整っており、それを読みながらの実装でしたがとにかく初めての概念が多いため覚えることがたくさんありました。
この点に関してはまずGoogle CodeLabsをやるのが良かっただろうというのが反省です。

3. モバイルアプリにあるロギング実装に関するドキュメント整備

VIPER化を断念した後、自分が何をするべきかを留学当初の目標に立ち返って考え、取り組むべき課題を考えることとしました。元々の目標の中心にあった「ログ周辺」の課題がなにかないか考えたところ、「レシピアプリ内で使われるロギングの実装がとっちらかっているように見えるのでなんとかしたい」という課題を留学期間中に感じていました。
そこで実際に取り組んだタスクがこのドキュメント整備と次の旧ロギング実装のリファクタリングです。
レシピアプリはiOS・Androidともに開発に参加しやすい状況を維持すべく、開発参加者への支援が手厚く用意されています。オンボーディングや開発者向けドキュメントなどがそうです。ですが、アプリから送られるログ周りに関しては専門家がいなかったため、包括的なドキュメントがありませんでした。 そこで留学という機会を利用して、レシピアプリ開発へ新規に参加するエンジニアでもロギング実装に困らないようなドキュメントを書きました。

4. 旧ロギング実装のリファクタリング

3番目のドキュメント整備タスクと並行して、古いログ送信処理を置きかえる作業を実施していました。旧ロギング実装はアプリ開発からしてみれば何か大きく問題点があるわけではなかったため、誰にも気づかれずそのままとなっていました。しかし、実際に送信されたログを保守・加工・分析を行っている側では微妙に扱いづらいものであり、ログデータを利用する側(分析者やデータ整備者)ではちょっとした負債となっていました。この分析サイドからみた負債を解消することが、旧ロギング実装リファクタリングの目的でした。 こういった負債の指摘やリファクタリング作業やドキュメント整備はログデータを送る側からも利用する側からも扱いやすい、より良いログデータ環境を目指そうという意識付けにも繋がりました。データ基盤はは送信箇所や分析箇所などの特定の箇所の改善では使いやすくなりません。実際の利用フローに合わせ、足並みを揃えてトータルの改善をすることで多くの人から喜ばれるデータ基盤となります。

上記4つのタスクをひたすらにこなしているうちに気づけば2ヶ月が経過してしまい、エンジニア社内留学が終了となりました。留学自体は終わりましたが、自分自身がクックパッド社内でデータに関わるいちエンジニアであるということには変わりがないため、今回得た経験を活かして今後もデータ分析環境の改善に取り組んでいくつもりです。

エンジニア社内留学からの副産物的成果

実際にやってみたところ、予想していなかった副産物的成果がいくつかありました。自分としては「完全なAndroid初心者では手取り足取り教えてもらうだけになりそう」と思っていたのですが、留学をしてみたら意外と好影響もあったようです。

1. Android入門者用のドキュメントが改善された

初めてのAndroid開発に参加するため、レシピアプリに関する全ドキュメントに目を通すこととなりました。この際に疑問に思ったところは片っ端から質問をするようにしていたため、ドキュメントの不備・陳腐化した内容・分かりにくい説明などはどんどん修正されていきました。

2. ログに関する議論が活発になった

留学先のモバイル基盤部はお昼会という名のデイリーミーティングと、週次で行われる振り返りミーティングがありました。リモート期間中だったので1これらのミーティングは全てZoom越しに行われました。このミーティングで同僚の着手タスクの概要や進捗状況を把握するわけですが、こういった日々の会話の中で常にログデータの取り扱いに関する話に対して質問やコメントをしたりし続けていました。
折しも社内でログの取り扱いに関する話題が活発化しているタイミングで、そういった議論に関して「今こういう話が活発ですよ」「このチャンネルでこういう議論がかわされていますよ」という誘導を会話の中でし続けていました。
ロギングのドキュメント整備で話し合う機会もあり、「他部署ではログデータをこう取り扱っている」といった部署横断的な知識の提供に繋がりました。

3. 今まで方針の定まっていなかったロギング実装に関して、話し合いの場を設けて合意をとった

「やったこと」の3つ目に書いてあるとおり、留学後にこなした業務の中で「ロギングのドキュメント整備」がありました。このドキュメント整備ですが、今まで明文化されていなかったものをドキュメントに書き起こすだけで済むかと思いきや、そうではありませんでした。
これまで言語化されていなかったため、明確になっていたなかった点がいくつもあったのです。ドキュメントを制定するに当たり、同時にプルリクエストレビューで多くの人と意識のすり合わせがなされました。また、PRだけでは決まりそうにない、ロギング実装に関する大きな意思決定のため有識者会議を開くこともありました。
多くの人が関わるクックパッドのレシピアプリ開発の方針決定に関わることになるとは留学前には考えていもいませんでした。

終わりに

クックパッドでのエンジニア社内留学制度の紹介と、その制度を利用したAndroid留学体験を紹介しました。
社内で異動することなく、別分野のエンジニア業務を体験してみるのは新鮮なことでしたし、自分が取り組める業務の幅も広がったと思います。また、初心者かつ異分野エンジニアが留学してみると、留学ならではの好影響も与えられるという発見がありました。

留学を終了した証書
無事に留学修了証書をもらいました


  1. クックパッドでは新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、2月から全従業員を対象に在宅勤務を実施しています。在宅勤務に対する取り組み例はこちら。記事1記事2