こんにちは、クックパッドの齋藤です。 私はハードウェアPdMとして、クックパッドマートで事業に関わるハードウェア(マートステーション、プリンタ、温度監視システム等)の企画開発・開発ディレクション・調達・保守等をやっています。
クックパッドマートとハードウェア
クックパッドマートは2018年9月20日にリリースされた生鮮食品のECプラットフォームです。リリースから4年以上経ち、新規事業ならではのスピードを維持しつつサービス拡大のため試行錯誤を日々続けています。
クックパッドマートはiOSとAndroidの専用アプリで利用可能です。このアプリで商品を購入して、近所の受け取り場所(マートステーションと呼んでいます)で受け取れます。有料で自宅配送するオプションもあります。
クックパッドマートでは、食材の輸配送や保管といった現実世界を相手にビジネスを展開しているため、冷蔵庫をはじめとした様々な機材が必要になるのですが、その中にはまだ世の中になく新しく開発する必要があったり、海外から調達する必要がある物がたくさんあります。
そのため社内にはハードウェアチームがあり、ハードウェアエンジニアや組込エンジニア等、普通のWeb系企業にはいない、ユニークな人材がいます。
今日はその中でも、海外のデバイスメーカーから工事設計認証(技適)を自分たちで取得したお話をしたいと思います。
なぜ技適を取るのか
今クックパッドマートではチルド食材の配送時、シッパーという断熱ボックスの中に食材と蓄冷剤を一緒に入れて、軽自動車のバンなどで運んでいます。
バンの中にはいくつもシッパーが入っているのですが、食材の安全性を担保するため、シッパー内の温度が異常になっていないか監視を行っています。
現在はGPSマルチユニットSORACOM Editionという機材を用いて温度監視を行っていますが、サービスローンチから時間が経って事業規模が大きくなってきたため、より低コストで温度監視ができる仕組みが必要となってきました。
そのためより効率的に配送中のシッパーの温度を把握し、異常を検知したり、万一品質不具合が出た時のトレーサビリティを確保する仕組み “TemperatureRightHear”、通称「TempRa(テンプラ)」を開発しています。
開発するものとしては、
- シッパーの中に入れ、温度センサーが取得する値をBLEで送信するビーコン
- バンのシガーソケットに刺し、1のデータを受信してLTE経由で送信する車載IoTゲートウェイ
- 2のデータを集計分析し、蓄積したりアラートを促すバックエンドシステム
の3つがありますが、現在マートでは配送バンを数多く運用しており、その時のシッパーは膨大な量になります。
1で用いる市販のビーコンは、1個あたり9,000円程度してしまいます。配送時には数千ものシッパーを用いるため、普通に調達してしまうと数千万円もの高額出費を覚悟する必要があります。
そこでまず、必要な個数を減らせないか考えました。実はこのビーコンは既にマートステーションでの温度監視に用いていたため、これを回収して転用することで新規調達の個数を減らす計画です。マートステーションの側ではより安価な有線の温度センサを利用するように変更します。余談ですがこの有線の温度センサも新規開発を行いました。
しかしながらそれでも足りないため、今回直接中国の深圳にあるメーカーから現地のビーコンを直接購入し、調達価格を抑えることとしました。 その場合1個あたり15米ドル程度で調達することができるため、1個あたりの差額は7,000円程度安く調達することができます。そのため大幅に調達価格を抑えることができるのです。
であればはじめからそうすればいいじゃん、となると思いきや、そうは問屋がおろしません。 日本で電波を発生する機器を使用する際は、「技術適合認証」(通称技適)を取得する必要があります。技適を取得していない機器で電波を発した場合、電波法違反という法令違反となります。
詳細な説明はこのブログ https://www.musen-connect.co.jp/blog/course/other/japan-radio-law-basic/ がわかりやすいです。
これを取得するのは結構面倒くさいですし、それなりに電気や電波に関するエンジニアリングの知見が必要なため、なかなか大変だったりします。
しかしながらクックパッドマートには、強力なハードウェアエンジニアがいますし、私自身もマートステーションの設置をするときや将来的に物流倉庫等をIoT化するときに使えるかと思い「第一級陸上特殊無線技士」という電波についての資格も取っていました。そこで認証機関に相談したところ3-50万円で取得できることがわかり、将来的なクックパッドの知見にもなると思ったので、社内で相談した結果、量産するもの1つ1つに技適を適用するときに用いる「工事設計認証」を取得した上で調達を行うこととしました。
取得の流れ
取得に当たっては、具体的に下のような流れですすめていきました。
デバイスの調達元からデータシート、金額見積等を照会します。 見積はサンプル費用、正式調達時の数量における単価と総額の2つにわけてもらいます。予算上問題がないことを確認し、サンプルを調達しました。
サンプルデバイスについて『技適未取得機器を用いた実験等の特例制度』の届出をし、動作や私たちの要求仕様を満たしているか確認します。 制度の詳細は https://www.tele.soumu.go.jp/j/sys/others/exp-sp/ をご確認ください。
認証機関に相談の上、申請書類を作成します。 認証期間はいくつかあるのですが、今回は老舗である「一般財団法人テレコムエンジニアリングセンター」(通称TELEC)に依頼しました。 書類作成は結構大変だったのですが、先方はとても親切で、細かい表現に至るまで細かくフィードバックいただけました。それだけ書類の「てにおは」含め細かく校正が必要で、このフィードバックがなければ書類作成ができませんでした。
認証機関で試験を行います。 試験の際はサンプルデバイスとは別にテスト用のデバイスが必要です。このデバイスはスペクトルアナライザ等に接続するためRF出力ができる必要があり、また先方の安定化電源に繋げられる必要があります。このテストデバイスを用いて、入力電圧などを変えながら挙動を確認する試験を行っていただきました。
取得費用
デバイスの仕様によって異なりますが、今回はBLEのみのデバイスということで、約30万円が費用としてかかりました。
申請書類
主な申請書類は認証申込書・別紙資料、工事設計書、無線設備系統図、確認方法書、 部品配置図又は写真、外観図又は写真です。詳細は https://www.telec.or.jp/services/tech/offer.html をご確認ください。 無線設備が1チップになっていたりしたときはどうするのか、その半導体の詳細構成が開示されてない場合はどうするのか、等細かい不明点が山のように出てきますし、製造元とのやりとりもいろいろ発生します。
面白かったのは、部品が容易に変えられないことを説明するやり取りです。調達予定のデバイスは普通のプラスドライバーでケースが開いてしまうのでそこがいけないのかと思い、ネジが保護ゴムで覆われていて容易には開けられないということを書いたところ、「部品が表面実装部品で構成されている」と書けばよいとのことでした。この辺のニュアンスは、慣れていないと全く分からないですね……。
試験当日
ここから書類の修正作業をしたりテストデバイスをメーカーから取り寄せたりに10営業日くらい使いました。申請書類がOKとなれば、試験当日です。 それまでにテストデバイスの制御用ソフトウェアの動作確認や、デバイスとの接続確認をした上で、試験機関を訪問してテストです。 テスト中デバイスが想定外の挙動をするなど、ヒヤヒヤする場面もありましたが、なんとかみんなのファインプレーで切り抜けることができました!
審査と認証書交付
その後先方内で審査があり、終了後1週間程度で無事認証書が交付されました! やったね!
正式調達
実際に交付された認証番号をデバイスに記載した上で、ようやく正式調達です! せっかくなので、ロゴと弊社ミッション “Make everyday cooking fun!” も書いておいてもらいました!
終わりに
ということで、今回クックパッドではじめて、工事設計認証の取得を試みてみました。 今までマートのハードウェアチームはステーションの開発やプリンタの開発等、リアルワールドで仕事をする上で欠かせないハードウェアを開発・量産・保守してきました。 もちろん今回のデバイスはスクラッチ開発ではないですし、なんなら別メーカーにて日本に導入済みのデバイスです。 しかしながら今回取得した工事設計認証も、そういったハードウェアを扱えるチームがあってこそ、無事取得まで漕ぎ着けることができたのは間違いありませんし、 社内ブログ「Groupad」にて知見共有が積極的に行われていたので、そういったクックパッドならではの技術的知見で、はじめてのことでもチャレンジすることができました。 取引先との雑談でそういった話が出た時には、「そこまでやるんですか!」と言われることも多いです。
このような形で、ハードウェアチームはユーザの皆様に安全・安心で高品質な食材をお届けするという、「あたりまえのことを」「あたりまえに」実現するために日々開発や保守をおこなっています。
もしご興味がある方がいらっしゃったら、是非こちらから採用情報をご確認ください!