クックパッドでのユーザ調査

こんにちは、ユーザファースト推進部デザイングループの長野です。

今回は、クックパッドで定期的に行っているユーザ調査について、下記の流れでご紹介してみたいと思います。

  1. なぜ調査するのか
  2. どのような調査をしているか
  3. 調査結果の記録と共有の方法
  4. 実際のサービスに活かされた事例

1. なぜ調査するのか

クックパッドでのものづくりはすべて、「誰のどんな課題を解決するのか」を明確に定義することから始まります。そのためには、対象となる「人」への理解が不可欠であり、ユーザ調査はその手段です。

現在クックパッドでは、レシピ検索だけでなく生活全般へと事業領域が広がってきており、提供するサービスが対象とする「人」の生活や利用シーンの幅も、ますます多様化しています。それにともなって、様々なタイプの人の生活を理解することが必要とされてきており、ユーザ調査を活用する意味も、より強まってきていると感じています。

2. どのような調査をしているか

ユーザ調査の手法には様々なものがあると思いますが、クックパッドで最近よく行っているのはコンテキストインタビューという手法です。

コンテキストインタビューでは、相手に意見や要望を聞くことはせず、その人の普段の生活やそこで行う実際の作業の様子をありのままに教えてもらいます。「教えてもらう」というのが大切で、相手の話を先回りしたり、間違いを指摘したりしないように気をつけながら話を聞きます。相手の普段の生活を具体的にイメージできるくらいまで掘り下げるために、インタビューの進め方でもいくつか工夫をしています。

1日の流れを時系列に聞いていく

相手は私たちがクックパッドを作っている人だというのを知っているので、普段の生活全般の話を聞かせてほしいと言っても、どうしても料理に関する部分だけを取り出して語られてしまうことが多いです。 でも実際には、朝のランニングの時間や通勤電車の中でしていることに課題があるかもしれません。 そのため、最近のインタビューでは「朝起きてからの生活を順を追って聞かせてください」という風に、時系列で話を聞いていく形式にしています。そうすると、自然と今日や昨日の生活を思い出しながら話をしてくれるようになるので、生活の全体像がより掴みやすくなります。

実際の作業をやって見せてもらう

「クックパッドを使ってます」とひとことに言っても、私たちが予想していない使い方をされていることが多々あります。本人は毎日当たり前のようにやっているので、質問しただけでは出てこないような工夫や使い方が、実際の作業を観察すると発見できます。 たとえば、スマートフォンにクックパッドアプリを入れているのに、まずはブラウザから検索して、良さそうなレシピを見つけたらIDをメモして、今度はアプリを起ち上げて、IDで再検索をして...など。予想しない使い方にも必ず理由があり、それこそがサービスの改善や新サービスのアイデアにつながることも多いです。

3. 調査結果の記録と共有の方法

クックパッドではこのようなユーザ調査を、ほぼ毎月10名くらいを対象に実施しています。 調査結果は、インタビューに参加していなかった人もサービスづくりの参考にできるよう記録・共有するようにしています。

生の声をそのまま書き起こす

まずは一次情報として、できるだけ会話の内容を要約をせず、生の声をそのまま文章にします。これは、記録した人の主観で要約されることによって、他の人の視点からみたときにヒントになり得る情報が抜け落ちないようにするためです。出来るだけリアルな言葉で書き起こされていれば、あとから読み返すことでインタビューを追体験することができます。

ユーザタイプを分類する

集まったインタビュー記録は、傾向の似通ったユーザをまとめて、いくつかのユーザタイプに分類します。 分類の指標として、サービスの利用形態に影響がありそうな6つの項目を設定しており、各項目についてインタビュー結果を5段階で重み付けします。それをレーダーチャートに起こし、出来たグラフの傾向から分類を決めます。

  • インタビュー結果の重み付けをした例

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各タイプの人物像を描く

ユーザ像はよりリアルにイメージしやすく描くことが社内のメンバーと共有する上で大切です。ユーザタイプに特徴的な事柄をインタビューから抜き出し、その人達の生活をイメージできる情報として、まとめるようにしています。

  • 人物像の例

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4. 実際のサービスに活かされた事例

上記のような調査で得られた知見が実際のプロジェクトに活かされた事例をいくつか紹介したいと思います。

スマートフォンサイトの検索結果リニューアル

つい先日、クックパッドではスマートフォンサイトのレシピ検索結果をリニューアルしました。 採用されたUIデザインには、ユーザ調査から得られた気づきのいくつかが実際に反映されています。

写真が引き立つレイアウト
  • リニューアル前のUI(左)とリニューアル後のUI(右)

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実際にレシピ検索をしてもらうと、多くの人が、まず出てきた大量のレシピをざーっと眺め、そこから気になるものをピックアップしてより詳しく情報を見ていくという行動をします。この「ざーっと眺める」という部分を観察していると、明らかに文章を読むようなスピードではなく、写真と気になるワードのいくつかをざっと見てすぐに判断していることがわかります。 そうした視点でみると、以前のレイアウトは写真が正方形で小さく、どちらかというと文字情報の方が目に入ってきやすいデザインになっていました。そこで、リニューアル後は無駄な余白を削って写真を大きく扱い、ぱっと見でも気になるレシピを的確に選ぶことができるレイアウトを採用しました。

材料表示の重要性

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リニューアル前も後も、クックパッドの検索結果ではレシピの材料を表示しています。 この背景には、「家にあるもので作れるかどうか」がレシピ選択の判断基準になるという仮説があるのですが、今回のリニューアルではその仮説の検証も含め、材料表示の必要性を再検討しました。

インタビューをしてみると、やはり多くのユーザがその日の料理のためだけに買い物に行くことは少なく、家にあるものを使って料理をしたいと思う状況はとても多いということは確信できました。さらに、材料表示を見て「料理の味を想像できる」ということが、レシピ決定に重要な役割を果たしていることも発見できました。「家にあるもので作れるかどうか」だけでなく「気分や好みに合うかどうか」を判断するためにも、材料表示が機能することを再認識しました。

MYフォルダ機能の表示

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気に入ったレシピを保存するためのMYフォルダ機能への導線が、今回のリニューアルから検索結果にも表示されるようになりました。その理由として、ユーザ調査から得られた2つの気づきがあります。

一つ目は、機能の認知不足。インタビューをしていると、頻繁にクックパッドを使っているのに、MYフォルダを知らないという人が予想より多いことが感じられました。気に入ったレシピを保存したいと思っても、機能に気付かず、印刷をしたり、ブックマークをしたり、自分のメールに送ったりしているのです。「気に入ったレシピを保存したい」人たちに、機能を適切に届けられていないという課題がみつかったので、頻繁に利用される検索結果にMYフォルダのUIを表示することにしました。

二つ目は、保存したけど忘れられてしまうレシピの存在。機能を知らない人がいる一方で、MYフォルダのヘビーユーザは数千件のレシピを保存していることもあります。その人たちの課題として、レシピを保存したこと忘れてしまい、毎回新たに検索をしてしまうということがありました。リニューアル後のUIでは、保存しているレシピのフォルダアイコンにはっきりと色が付くので、レシピを見逃さずに済み、より効率の良いレシピ決定をすることができます。

新機能・新サービス企画時の方向修正

ユーザは料理中にレシピを見ていなかった

以前、レシピページを調理中にもっと見やすくする機能の企画があがったことがありました。その際、最初は企画のターゲットとして、料理頻度が高い主婦のようなユーザ像を置いていました。しかし、実際にそのようなユーザの話を聞いてみると、実は調理中にレシピをほとんど見ていないことがわかりました。ある程度の料理スキルがある彼女たちは、大まかな作り方と味付けのイメージが出来れば、料理が作れてしまうのです。このような事実から、調理中にレシピを見やすくするという機能は、もっと他のユーザ層(例えば料理初心者)だったり、他の利用シーン(例えばお菓子作りなど)にフォーカスして作ったほうが良さそうだということがわかってきました。企画の方向性を考える上でユーザー調査が役立ったわかりやすい事例でした。

健康意識の高まりと年齢は必ずしも相関しない

現在クックパッドでは、「健康レシピ」や「ダイエット」など健康を意識した食生活を応援するサービスをいくつか展開しています。 特に「健康レシピ」では、高血圧や糖尿病など、高齢になるほどリスクが高まる病気を予防する食事をテーマに扱っているため、漠然とターゲット層はシニア層であるというイメージがありました。しかし、実際にシニア層のユーザにインタビューをしてみると、特に自分の健康に問題がない状態の場合、年齢を重ねたからといって健康意識が高まるとは必ずしも言い難いという現実がありました。むしろ、元気なうちに好きなことをやって好きなものを食べたいという気持ちが高まる傾向もみられ、単純にシニア層とひとくくりにしてしまうことも危険だと感じました。逆に、若くても身近に病気をもった家族がいたりすれば意識はぐっと高まるので、ユーザを取り巻く環境などもきちんと見据えた上でターゲットユーザを理解することが大事だと感じされられた事例でした。

まとめ

以上、最近のクックパッドで行っているユーザ調査の概要と、それがどのようにサービスに活かされているかについて、ご紹介しました。

ユーザ調査は実践するまでは、ちょっと面倒で億劫に感じることもあるかもしれません。でも、実際にやってみると何度やっても必ず発見があり、本当に面白いと思います。

クックパッドでは、デザイナーでもエンジニアでも、サービスをつくる人は誰でもユーザ調査に参加します。このエントリを通して、ユーザ理解から始まるクックパッドのものづくりの様子が少しでも伝われば幸いです。